縁・恋愛の福
泉穴師神社|織物のまち泉大津を見守る夫婦の神と縁結びの信仰
毛布の生産で知られる大阪府泉大津市に、白鳳元年(672年)創建と伝わる古社があります。和泉国二宮・泉穴師神社(いずみあなしじんじゃ)です。祀られているのは農業の神と織物の神、夫婦二柱。縁結びと織物・産業発展の信仰で知られ、「繊維のまち」の歩みとこの神社の由緒は、驚くほどきれいに重なっています。
農業の神と織物の神、夫婦二柱を祀る和泉国二宮
主祭神は天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)と栲幡千々姫命(たくはたちぢひめのみこと)の二柱です。天忍穂耳尊は農業の神、栲幡千々姫命は紡織、つまり糸を紡いで布を織ることをつかさどる神とされ、この二柱は夫婦にあたります。夫婦の神をともに祀ることから縁結びの信仰で知られ、公式サイトでは神前結婚式も案内されています。
社格も相当なものです。平安時代にまとめられた法令集「延喜式」に名前が載る式内社で、和泉国(今の大阪府南西部)では一宮に次ぐ格式の二宮。和泉国を代表する和泉五社の一つに数えられ、明治以降は府社でした。創建は社伝で白鳳元年(672年)と伝わりますが、神功皇后の時代とも神武東征の折とも言われ、確かなところは分かっていません。伝承が一つに定まらないこと自体、記録の届かないほどの古さを物語っています。社伝どおりに数えれば、1350年を超える歴史です。
女神の名前に「織物」が織り込まれている
調べていて印象的だったのは、公式サイトが女神の名前を一文字ずつ解きほぐしていることでした。「栲(たく)」は麻・絹・綿など繊維の総称、「幡(はた)」は布類。栲幡千々姫命という名前そのものが、織物の女神であることを示しているわけです。名前がそのまま神格の説明書になっている、めずらしいほどわかりやすい神さまだと感じました。
ここで泉大津というまちの顔を思い出してください。江戸時代以来の繊維産業地で、今も「毛布のまち」として全国に知られます。まちの基幹産業と氏神の神格がここまで重なる例は、そう多くありません。泉穴師神社は泉大津の紡績業とも縁が深いとされ、機械が糸を紡ぐようになるはるか前から、このまちには「織ること」を見守る神がいたことになります。
農業の神と織物の神の夫婦、という組み合わせにも目を引かれます。食べることと、着ること。暮らしの土台になる二つの営みを、夫婦の神が並んで見守っている構図です。縁結びの信仰がこの二柱に寄せられてきたのも、自然な流れに思えます。
豊臣秀頼が改築した本殿と、府内最古と言われる住吉本殿
建物も見応えがあります。慶長7年(1602年)、豊臣秀頼が片桐且元を奉行として本殿と摂社春日神社本殿を改築しました。桃山期の姿を今に伝えるこの二棟はいずれも国指定重要文化財で、改築からすでに400年以上が経っています。
さらに時代をさかのぼるのが摂社住吉神社本殿です。建立は文永10年(1273年)、鎌倉時代。大阪府内最古の神社本殿と言われており、こちらも国の重要文化財に指定されています。平成28年(2016年)には、社に伝わる木造神像80躯(く)がまとめて国の重要文化財になりました。一つの神社に鎌倉と桃山、それぞれの時代の社殿と80躯もの神像が残っている。この密度が、由緒の確かさを静かに裏づけています。
境内を包む鎮守の森も見逃せません。樹齢600〜800年とされるクスノキの大木群のうち12本が市指定の天然記念物で、森は「大阪みどりの百選」に選ばれています。樹齢600〜800年といえば、鎌倉時代の住吉本殿とほぼ同じ時間を生きてきた計算になります。参拝の前後に、少し立ち止まって見上げてみてください。
訪ねるときに
所在地は大阪府泉大津市豊中町1丁目1-1。地図や基本情報は泉穴師神社のスポットページにまとめています。服やタオル、毛布など、繊維にかかわる仕事をしている人なら、なおさら訪ねる意味のある社ではないでしょうか。
一つだけ添えておくと、縁結びも産業発展も、あくまで古くから続く信仰であって、効果を約束するものではありません。境内は今も地域の祈りの場です。重要文化財の社殿やご神木には手を触れず、参拝している方の妨げにならないよう、静かに歩きたい場所です。
神社めぐりというと、歴史の古さや建物の立派さにばかり目が行きがちです。けれど泉穴師神社の面白さは、「いま動いている産業」と地続きなところにあります。毛布が織られている同じまちで、織物の女神が祀られ続けている。白鳳の創建伝承から毛布のまちの現在まで、泉大津の歩みをまるごと見守ってきた社でした。
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参考・出典
- https://izumi.anashi-jinja.com/deity/
- https://www.city.izumiotsu.lg.jp/kakuka/koushitsu/hishokoho/shinainomeishokyuuseki/izumianashijinnjya.html
- https://osaka-info.jp/spot/izumianashijinja/
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%89%E7%A9%B4%E5%B8%AB%E7%A5%9E%E7%A4%BE