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縁・恋愛の福

貴船神社は絵馬発祥の地と伝わる — 水の神に馬を捧げた雨乞いの話

2026-07-16

絵馬のはじまりの地と伝わる神社が、京都の山あいにあります。貴船神社です。かつて朝廷は、雨を降らせたいときには黒い馬を、雨を止ませたいときには白い馬を、この社に捧げていました。生きた馬がやがて板に描いた馬へと姿を変え、絵馬の原型になったと伝わります。

絵馬掛けにずらりと並ぶ木の板は、いまや日本中どこの神社でも見かける光景です。神社でなにげなく手に取るあの小さな板の源流をたどっていくと、水の神様と馬の物語に行き着きます。

雨乞いの黒馬、雨止めの白馬

貴船神社の本宮に祀られているのは、水を司る高龗神(たかおかみのかみ)です。公式サイトでは「全国二千社を数える水神の総本宮」と紹介されています。この二千社は水の神を祀る社の数で、「貴船神社」の名を持つ社に限れば約500社と数える資料もあります。数え方に揺れはあっても、この谷から水の信仰が全国へ広がっていったことに変わりはありません。

創建は反正天皇の御代とする説もありますが、確かな年代は分かっていません。社伝には白鳳6年に社殿を造り替えた記録が残ると伝わります。白鳳6年は西暦になおすと666年とも677年ともいわれ、資料によって幅があるものの、いずれにせよ7世紀です。「造り替え」の記録がそれほど古いのですから、社そのものはさらに前からこの谷にあったことになります。

平安時代、朝廷は日照りが続くと雨乞いのために黒い馬を、長雨が続くと雨止めを願って白い馬(赤い馬とも)を、この社に奉納しました。やがて生きた馬の代わりに「板立馬(いたたてうま)」と呼ばれる木の板の馬が納められるようになり、これが絵馬の原型になったと伝わります。

調べていて印象的だったのは、正反対の願いを馬の色で使い分けていたという点です。雨が欲しいときは黒、止んでほしいときは白。天気という人の手に負えないものを、馬に託して神前へ届ける発想が、千年以上前にすでにありました。現在の授与所にも白馬と黒馬を描いた絵馬があり、この故事は今も境内で生き続けています。

和泉式部が復縁を祈った「恋の宮」

貴船神社にはもうひとつの顔があります。縁結びです。本宮から貴船川に沿って上がった先にある結社(ゆいのやしろ)には磐長姫命(いわながひめのみこと)が祀られ、「恋の宮」と呼ばれる縁結びの信仰で知られています。

平安中期には、歌人の和泉式部が夫との復縁を祈ってここに参拝しました。その逸話は『後拾遺和歌集』に収められており、貴船川を舞う蛍に想いを重ねた歌を詠んだと伝わります。恋に悩んだ平安の歌人が歩いた川沿いの道を、千年後の参拝者が同じ願いを胸に歩いている。結社の授与絵馬に和泉式部の姿が描かれているのは、この物語が今も信仰の中心にあるからでしょう。

「きふね」と濁らずに読む

参拝前に知っておきたい豆知識をひとつ。地名の貴船は「きぶね」と読みますが、神社の名は「きふね」と濁りません。水の神様を祀ることから、濁らない清らかな音で呼ばれるとされています。この一点だけでも、土地の人々がこの社をどう扱ってきたかが伝わってきます。

境内の名物が水占(みずうら)みくじです。乾いた状態では何も書かれていないように見える紙を御神水に浮かべると、文字が浮かび上がるおみくじで、水の神様の社ならではの授与品として親しまれています。

所在地は京都府京都市左京区鞍馬貴船町180。本宮・結社・奥宮が貴船川に沿って並ぶ山あいの聖地で、奥宮には本宮と同じく水を司る闇龗神(くらおかみのかみ)が祀られています。明治には官幣中社に列せられた古社で、現在は水占みくじや縁結びの信仰を目当てに、全国から参拝者が訪れます。参道は自然の中の道が続きますから、歩きやすい靴を選び、山の静けさを乱さないよう心を配りながら参拝したいところです。所在地や地図は貴船神社のスポットページにまとめています。

一枚の絵馬の向こうに

願いごとを書く小さな板の向こうには、生きた馬を捧げてまで雨を祈った時代がありました。生きた黒馬と白馬から板立馬へ、板立馬から今日の絵馬へ。形は変わっても、祈りをかたちにして神前へ納めるという営みは途切れていません。絵馬を掛けるとき、その一枚が千年以上続く祈りの列の最後尾なのだと知っていると、筆をとる手が少しだけ丁寧になる気がします。

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参考・出典

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