神社の教養
大坂城を建てるために動かされた社 — 生國魂神社と「生國魂造」
大阪城の天守を見上げるとき、その足元にかつて神社があったと考える人は少ないと思います。
大阪観光局の公式サイトによれば、生國魂神社(いくくにたまじんじゃ)は石山崎——現在の大阪城付近——に生島神(いくしまのかみ)・足島神(たるしまのかみ)を祀ったのが始まりとされています。
その社が、いまは上町台地の西側、天王寺区生玉町にあります。動いたのは、大坂城を建てるためでした。
祀られていたのは「島」の神
まず祭神の名前が独特です。生島神と足島神。どちらにも「島」が入っています。
社名の「生國魂」も、字面をそのまま読めば国の魂を生む、となります。祭神の名と社名が揃って土地そのものを指している。上町台地の北端に、そういう神が祀られていたことになります。
生國魂神社は延喜式に名神大社として記されています。延喜式は平安時代の法令集ですから、そこに載っているということは、少なくとも千年以上前には国が認める格式の社だったということです。
天正8年、石山合戦で焼ける
戦国時代、上町台地の北端は大坂本願寺の寺内町でした。そして織田信長との十年に及ぶ争い——石山合戦の舞台になります。
大阪観光局の公式サイトは、生國魂神社が天正8年(1580年)の石山合戦の際に焼失した、と記しています。
同じ戦火で焼けた寺が、上町台地を南に下ったところにもあります。愛染堂勝鬘院です。詳しくは愛染さんはなぜ縁結びの寺なのかに書きました。台地の上は、そういう場所でした。
天正11年、秀吉が城を建てる — だから社は動いた
焼けた三年後、豊臣秀吉が大坂城の築城にかかります。
大阪観光局の公式サイトによれば、天正11年(1583年)、秀吉が大阪城を築く際に生國魂神社は現在の地へ移されました。
再建ではなく、移転です。社があった場所に城が建つ。信仰の中心地が、そのまま権力の中心地に置き換わったわけです。
このとき動かされたのが、国土を生む神を祀る、延喜式にも載る古社だったという点を私は面白いと思っています。大坂という土地を治めるにあたって、その土地の神をどけて城を建てた。乱暴な言い方をすればそうなりますが、秀吉は移転先にきちんと社殿を造営させています。
なぜ、秀吉はそこに城を建てたのか
社を動かしてまで、なぜあの場所だったのか。
答えは地形にあります。上町台地は大阪平野のなかでほぼ唯一の高台で、北端は三方が低地に囲まれた突端になっています。西も北も守りやすい。しかも川と海に近く、船が着く。
だからこそ蓮如が石山御坊を開き、それが大坂本願寺という一大拠点に育ち、信長が十年かけても落とせなかったわけです。秀吉は、その難攻不落を実証した場所をそのまま城地に選んだことになります。
生國魂神社が最初にあったのも、同じ理由からでしょう。台地の突端は、社を置くにも城を置くにもいちばんいい場所でした。取り合いになる土地だった、と言い換えてもいいと思います。
移転先で生まれた「生國魂造」
そして、その社殿が特異でした。
大阪観光局の公式サイトの説明によれば、本殿は移転の二年後に造営され、「生國魂造」と呼ばれる様式をとっています。本殿と幣殿をひとつの流造で葺きおろし、正面に千鳥破風、すがり唐破風、千鳥破風の三つの破風を据えたもの。同サイトはこれを「神社建築史上ほかに例のない」デザインだと記しています。
破風というのは屋根の妻側にできる三角形の部分です。それが正面に三つ並ぶ。
流造は、全国の神社でもっとも数の多い本殿の形式です。屋根の前側が長く伸びて向拝になる、あの形。ふつうは本殿だけをその形で建て、幣殿は別棟として続けます。生國魂造はそれをひとつの屋根で葺きおろしてしまう。
一般的な作法から外れたものが、移転という非常事態のあとに生まれたことになります。焼けて、動かされて、その先で唯一無二の形になった。しかも造営したのは、社を動かした当人である秀吉の側です。
「いくたまさん」と呼ばれて
大阪の人はこの社を「いくたまさん」と呼びます。
境内には「彦八の碑」があります。上方落語協会の公式サイトによれば、大阪落語の始祖とされる米澤彦八が活躍したのがこの境内で、その名を後世に残すために平成2年(1990年)に碑が建てられました。翌年からは年に一度、落語家が一堂に会する「彦八まつり」が開かれています。
格式の高い古社でありながら、笑いの祭りが立つ。町の暮らしと近いところに、ずっとあった社なのだと思います。
土地の神を祀る古社が、戦火で焼け、城のために動かされ、その先で前例のない社殿を得て、いまは町の人に略称で呼ばれている。千年以上のあいだに、ずいぶん遠くまで来た社です。
場所とデータは生國魂神社のページにまとめています。
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参考・出典
- 生國魂神社(いくたまさん)観光ガイド|歴史と見どころを紹介
osaka-info.jp - 彦八まつり - 公益社団法人 上方落語協会
kamigatarakugo.jp