水の福
大阪市内で唯一の滝は、1796年につくられた — 清水寺 玉出の滝
大阪市内に、滝はほぼありません。唯一といわれるのが、天王寺区の清水寺にある「玉出の滝(たまでのたき)」です。
高さは人の背丈ほど。三本の樋から水が落ちています。白装束の人が打たれている光景を見たことのある方もいるでしょう。
ただ、この滝には知っておくとよいことがあります。大阪市の資料は「寛政8年(1796年)には『玉出の滝』もつくられた」と記しています。
つくられた滝、湧いてくる水
「つくられた」という一語をどう読むか。
滝そのもの——水を落とす構造は、江戸時代後期に人の手で整えられたものだ、と読むのが自然です。自然の崖から偶然落ちていた水を、そのまま滝と呼んでいるわけではありません。
一方で、水そのものは湧いています。玉出の滝の水は、四天王寺の金堂の地下にあると伝わる青龍池から、地下を流れて来るという由緒が語られてきました。上町台地の西の崖から、その水が出る。
つまりこういう構造です。
- 水=自然に湧いている(水脈は古い)
- 滝=1796年に人が形を与えた
この分け方は、玉造稲荷神社の利休井とよく似ています。あちらも、井戸そのものは平成18年に掘り直された新しいものですが、神社は「同じ水脈」と説明しています。詳しくは城に取り込まれた社に書きました。
古いのは水で、新しいのは器。大阪の水にまつわる場所は、この形が多いようです。
四天王寺の下から来る、という由緒
水源の話をもう少し。
四天王寺の金堂の下に青龍池があり、そこから水が流れ出しているという由緒は、四天王寺 亀井堂にも伝わっています。亀井堂では、その水を「白石玉出の水」と呼びます。
玉出の滝の「玉出」と、亀井堂の「玉出の水」。同じ名前です。
四天王寺の金堂を中心に、地下を水が流れ、南東の亀井堂と、北西の清水寺に湧いてくる。地質としてどうかという話ではなく、上町台地の水の記憶がそう語られてきたということです。
亀井堂での経木流しについては経木を水に沈めると、浮かんでくるに書きました。
京都の清水寺をまねた舞台
寺そのものについても触れておきます。
大阪市の資料によれば、この清水寺は創建は不詳です。崖の上に位置するため眺望がよく、京都の「清水寺の舞台」をまねて舞台を設けたとされています。
京都の清水寺から十一面千手観音像を迎えて本尊としたことから「新清水寺」とも呼ばれるようになった、と伝えられています。正式には有栖山清光院清水寺です。
上町台地の西端は、当時すぐ下が海か低湿地でした。崖の上に舞台を張り出せば、西の方角が一望できる。京都の舞台をまねるだけの地形が、ここにはあったわけです。
天王寺七坂の途中にある
この寺は、天王寺七坂のひとつ「清水坂」の上にあります。
上町台地の西の縁には、北から南へ七つの坂が並んでいます。真言坂・源聖寺坂・口縄坂・愛染坂・清水坂・天神坂・逢坂。坂ごとに寺があり、坂を上り下りすると台地の高低差がそのまま体で分かります。
玉出の滝が崖下にあるのも、この地形があってこそです。台地の縁だから水が湧き、崖があるから滝になる。 平地では成立しません。
すぐ北には愛染堂勝鬘院(愛染坂)があり、南へ下れば四天王寺です。七坂は歩いて一時間ほどで通り抜けられます。
いまも滝に打たれる人がいる
大阪市の資料は、簡潔にこう記しています。「いまでも滝にうたれる人がみられる」。
滝の奥の石窟には不動明王と八大竜王神が祀られ、白装束で滝に打たれ経を唱える滝行の場として知られてきました。
ビル街から歩いて数分の崖下で、いまも行が続いている。大阪という街の、あまり知られていない一面だと思います。
なお、滝の水は衛生上の理由で飲用できません。 手を浸すのも、行者の妨げにならないよう配慮が必要です。訪ねる際は、見物ではなく参拝の場として振る舞うのが良いと思います。
「古く見えるもの」と「実際に古いもの」
このサイトで記事を書いていると、同じ形の話に何度も出会います。
- 玉出の滝 → 滝は1796年につくられた(水脈は古い)
- 玉造稲荷の利休井 → 井戸は平成18年に掘り直し(水脈は古い)
- 法善寺の水掛不動 → 水を掛ける風習は戦後から(記事)
- 難波八阪神社の獅子殿 → 1974年築(記事)
どれも「昔からずっとこうだった」と思われがちですが、実際には江戸後期・戦後・昭和と、それぞれの時代に人が形を与えたものです。
だからといって価値が下がるわけではありません。古いのは信仰と水脈のほうで、目に見える形は、その時代の人が手を入れ続けてきた結果です。そう考えると、いま滝に打たれている人も、その連なりの中にいることになります。
場所とデータは清水寺(新清水寺) 玉出の滝のページにまとめています。
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参考・出典
- 大阪市:75.清水寺 (…>文化・スポーツ・生涯学習>生涯学習)
city.osaka.lg.jp