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厄除け・方位の福

12メートルの獅子は、舞台だった — 難波八阪神社の獅子殿

2026-07-29 | 執筆・編集:福跡マップ編集部

難波の街なかに、口を大きく開けた巨大な獅子頭があります。

写真で見たことのある人は多いと思います。ただ、あれが舞台だと知っている人は、そう多くないかもしれません。

公式サイトによれば、獅子殿の内部は舞台になっていて、正月には神楽や居合道、夏祭りには獅子舞や民踊などの芸能が奉納されます。飾りではなく、使われている建物です。

高さ12メートル、昭和49年築

まず数字から。公式サイトの記載は次のとおりです。

高さ12メートル
奥行き7メートル
7メートル
完成昭和49年(1974年)5月・本殿竣工と共に
構造鉄骨・鉄筋コンクリート、殿内一部木造
外観銅粉吹き付け合成樹脂仕上げ

意外なのは年代です。1974年。五十年ほど前の建物で、決して古いものではありません。

素材も鉄骨と鉄筋コンクリートで、外観は銅粉を吹き付けた合成樹脂仕上げ。伝統的な木造建築ではなく、はっきりと現代の工法で造られています。

「古くからある不思議なもの」ではなく、戦後に本殿を建て直したときに、いっしょに造られた新しい建物なのです。

口の中に祀られているもの

では、あの口の中には何があるのか。

公式サイトによれば、内部神殿には御祭神・素盞嗚尊の荒魂(あらみたま)が祀られ、唐櫃の上に加賀獅子一対が奉安されています。

荒魂は、神の荒々しい側面を指す言葉です。同じ神でも、和魂(にぎみたま)が穏やかな働きを、荒魂が激しい働きを表すと考えられてきました。

獅子が大きく口を開けている姿は、邪気を呑み込むといわれます。荒々しいほうの神格を、荒々しい形の中に祀る。造形と祭祀が合っている、といえます。

神社そのものは、千年前から

獅子殿が新しいだけで、神社は古い社です。

公式サイトによれば、古来「難波下の宮」と称し、難波一帯の産土神でした。後三条天皇の延久年間(1069年〜1073年)の頃から、祇園牛頭天王を祀る古社として世に知られていた、と記されています。

牛頭天王は、素盞嗚尊と同一視されてきた神です。疫病を鎮める神として、京都の祇園社(八坂神社)を中心に全国に広がりました。難波八阪神社もその系統にあたります。

千年近く前から、難波の人たちはここに手を合わせてきたわけです。その社に、五十年前、高さ12メートルの獅子が建った。

牛頭天王という神

もう少し、この社の性格に踏み込んでおきます。

祇園牛頭天王を祀る古社として知られていた、と公式サイトは記しています。この牛頭天王が、難波八阪神社を理解する鍵です。

牛頭天王は、疫病を鎮める神として信仰されてきました。京都の祇園社(現在の八坂神社)を中心に、全国へ広がっています。「八坂」「八阪」「祇園」「天王」といった名前の社が各地にあるのは、その広がりの跡です。

そして牛頭天王は、日本の素盞嗚尊と同じ神とされてきました。神と仏、日本と大陸の神格が重ね合わされている。こうした神仏の重なりについては神仏習合とはに書きました。

疫病を鎮める神を、街の真ん中に祀る。そこに邪気を呑み込む獅子の口を置く。カテゴリーとしては「除の福」に分類されますが、この社の場合、除けるべきものが何だったのかがはっきりしています。

同じく疫病と向き合った社が、道修町にもあります。少彦名神社です。詳しくは張子の虎は疫病除けだったに書きました。

一月の綱引神事

もう一つ、この社の特徴が綱引神事です。

公式サイトによれば、毎年1月の第3日曜日に行われるこの神事は、御祭神の素盞嗚尊が八岐大蛇を退治し、民衆の困苦を除いた故事に基づいて始められたと伝えられています。平成13年(2001年)には、大阪市で初めての無形民俗文化財に指定されました。

大蛇を綱に見立てて引く。神話の出来事を、人が体を使って毎年なぞる。獅子殿という現代建築と、千年前からの信仰と、神話を再演する神事が、同じ境内に同居しています。

難波という街の重なり

この社の周りを歩くと、層の重なりに気づきます。

北へ行けば法善寺があり、その一帯は江戸時代の葬送地を千日念仏で供養したことから「千日前」と呼ばれるようになりました。東には聖徳太子が四天王寺の西方守護として祀ったと伝わる今宮戎神社があります。詳しくは「千日前」の名は、千日の念仏からえべっさんは、寺を守る神として祀られたに書きました。

そしてこの獅子殿です。1974年に建てられた、鉄骨とコンクリートの獅子。

古いものだけが残っているのではなく、新しいものが足されて、それがまた人を呼んでいる。神社は博物館ではないので、こういう積み増しがあるのが本来の姿なのだと思います。

いま獅子殿の前で写真を撮っている人たちも、五十年後には「昔からある」と言われる光景の一部になっているはずです。

場所とデータは難波八阪神社のページにまとめています。

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参考・出典

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