縁・恋愛の福
高津宮の縁切坂と相合坂 — 旧都の跡を探して建てられた社
高津宮は、「昔ここに宮があったはずだ」という理由で建てられた神社です。
公式サイトの御祭神・由緒のページによれば、貞観8年(866年)、清和天皇の勅命により旧都の遺跡を探索して社地を定め、社殿を築いて祀ったのが始まりとされています。
仁徳天皇が営んだとされる難波高津宮。その跡地を、四百年以上たった平安時代に探しに行った。そこに社を建てた。創建の経緯としては、かなり変わっています。
「探索して社地を定めた」という創建
普通、神社は何かがあった場所に建ちます。神が降りた岩、湧いた泉、倒れた木。理由が先にあって、社が後にできる。
高津宮はその順番が違います。すでに失われた宮の跡を、後の時代の人が探しに行った。見つけた(と判断した)場所に社を建てた。
考古学に近い動機です。ただし目的は発掘ではなく祭祀でした。仁徳天皇という、民のかまどの煙を見て税を免じたと伝わる天皇を祀るために、その宮の跡地でなければならなかった。
祀られているのは仁徳天皇だけではありません。公式サイトによれば本殿は三座で、本座に仁徳天皇、右座に長子の履中天皇と葦姫皇后、左座に神功皇后・応神天皇・仲哀天皇が祀られています。祖父母から父、そして自身と妻子まで、一族がまとめて並んでいる形です。
天正11年 — この社も、城のために動いた
もうひとつ、由緒のページに重要な一行があります。
天正十一年(1583年)、比売古曽社の現在地に遷座した。
理由は豊臣秀吉の大坂城築城です。旧都の跡を探して建てられた社が、新しい城のために、その跡地から動かされたことになります。
同じ年、同じ理由で動いた社がもう一つあります。生國魂神社です。詳しくは大坂城を建てるために動かされた社に書きました。
天正11年、上町台地の北端では、少なくとも二つの古社が場所を明け渡しています。城を建てるというのはそういうことでした。
仁徳天皇と「民のかまど」
祭神についても少し触れておきます。
大阪市中央区の公式ページは、仁徳天皇が高殿に昇り、人家から立ち上る炊事の煙が少ないことに気づいて諸税を停止し、困窮する庶民を救済したという逸話を紹介しています。同ページには、こう詠まれたとされる歌も引かれています。
高き屋に のぼりて見れば煙たつ 民のかまどは賑わいけり
その高殿があったとされるのが、難波高津宮です。つまり高津宮は、この逸話の現場に建てられた社ということになります。
同ページによれば、境内は古典落語「高津の富」「高倉狐」「崇徳院」の舞台としても知られています。天皇を祀る格式の高い社でありながら、落語の題材が三つも出てくる。この距離感が大阪の寺社らしいところだと思います。
縁切坂と相合坂 — 広く語られている話
さて、今の高津宮を訪ねる人の多くが目当てにしているのは、境内西側の二つの坂です。
手前に縁切坂(西坂)、その先に相合坂。悪縁を断ってから良縁を結ぶ、という順路として語られています。相合坂は三角形の両端から男女が同時に登り、頂上でぴたりと出会えば相性がよいとされる、という話も広く知られています。
坂そのものは実在します。上町台地の西の縁ですから、境内から西に向かえば必ず下りになる。地形として当然そこに坂があります。
ただ、ここは正直に書いておきます。神社の公式サイトの御祭神・由緒のページにも、大阪市中央区の公式ページにも、この二つの坂の記述はありません。 名称も、由来も、縁結びや縁切りの信仰についても、私が確認した範囲では見当たりませんでした。
由緒書に載る話と、土地に語り継がれる話
だからといって、坂の話が作り話だと言いたいわけではありません。
神社の公式な由緒は、祭神と創建と遷座を記すものです。そこに載らない事柄は、境内にいくらでもあります。参道の木を誰が植えたか、どの角で子どもが遊んでいたか、どの坂をどう呼んでいたか。町の人の口の中にしかない情報は、由緒書には入りません。
坂の名前と縁の話は、おそらくそちらの層にあります。公的に保証された由緒ではなく、土地で語り継がれてきた言い伝え。二つは別の層にあるだけで、優劣ではありません。
この違いを混ぜずに置いておくのが、こういう場所と付き合うときのいちばん誠実なやり方だと思っています。信じるかどうかは、そのあとの話です。
坂を登るかどうかは、自由でいい
縁切坂を登ってから相合坂へ、という順路は、由緒書の保証を持っていません。それでも、そう聞いて実際に歩く人がたくさんいます。
歩けば地形が体でわかります。上町台地の西端がどれだけ急に落ちているか、その斜面の上に千百年以上前から社があったこと。坂の名前の真偽とは別に、そこは確かに残っています。
場所とデータは高津宮 相合坂・縁切坂と高津宮 献梅碑のページにまとめています。
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参考・出典
- 御祭神・由緒|高津宮(高津神社)~大阪市中央区高津~古典落語「高津の富」の舞台にもなったお宮です。
kouzu.or.jp - 大阪市中央区:高津宮 (…>まち歩き>区のスポット)
city.osaka.lg.jp - 生國魂神社(いくたまさん)観光ガイド|歴史と見どころを紹介
osaka-info.jp